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『夢の跡』
枕元の目覚ましの音で目が覚めた。
気分の良い朝だった。まるで長い夢から覚めたかのようだ。
部屋を出て、階下におりる。洗面所で顔を洗ってさっぱりしてから、キッチンで水を一杯飲んだ。
ふと見ると、テーブルの上に空のビール缶が二つのっていた。
僕は缶ビール一本で気持ち悪くなるほどアルコールに弱いので、
何か特別なことでもないかぎり滅多にお酒を飲むことはない。
(……はて、昨日はこんなに飲んだっけ?)
覚えがない。とりあえず空き缶を捨てた。買い置きの食パンを居間に移動する。
テレビを見ようとしたが、リモコンが見あたらない。
だからいつも使ったらちゃんとわかるところに戻してって言っているのに――。
「ねぇ、リモコン知らな………………?」
途中まで口に出して、首を傾げた。
僕は一人暮らしなのに、誰にリモコンの行方を聞くつもりだったのだろう。
探しても見つからなかったので、結局、テレビは本体の電源でつけた。
NHKの朝のニュースを見ながら、落ち着かない気分になって仕方なかった。
何かがおかしい。
僕は、何かを忘れている。
そう、いつもそばにいて当然の誰かが、今日にかぎっていないような……。
――総司さん。
「っ!」
そうだ。今日は『彼』がいない。
どうせまた寝坊しているんだろう。放っておいてもいいかな。まったく、朝はちゃんと起きろといつも言っているのに。
……そう思いながらも、僕は立ち上がった。胸騒ぎがして落ち着かない。
きっとそのうちに寝ぼけた目をこすりつつ降りてくるに違いないのに、そのはずなのに――
そんな『彼』の名前が思い出せない。
階段をのぼる。『彼』の部屋は僕の部屋の隣だ。以前は物置として使っていた部屋。
廊下を早足で歩き、扉の前に立ってノックもせずに引き開けた。
「……」
そこは、ただの物置だった。
中に入る。閉めきったカーテンの隙間から差しこんでくる細い朝陽に、埃が舞っていた。
脇に立てかけられていたコタツを指先でなぞると、溜まった埃で指先が汚れた。
扉を閉めて、階段を下りた。居間に戻って座りこんだ。
僕は、夢を見ていたのだろうか……?
長い一人暮らしに疲れて、その寂しさを埋めるために空想の同居人を作りあげて、都合の良い夢を見ていたのだろうか。
だとしたら、僕はなんて痛い人間だろう。
でも、その夢は、こんなにも覚めたことが寂しく思えるほどに、楽しかった。
夢はいつか必ず覚めるというのは、誰の言葉だっただろう。
……どれくらいそうしていたのか、壁時計が鳴って僕は顔をあげた。そろそろ出なくては、仕事に遅刻してしまう。
立ち上がって、身支度を整える。
靴を履き、玄関の扉を開けた。
「いってきます」
返事はなかった。
今日も一日が始まる。
かくして、一つの夢が終わり、
忘れられたものが、夢と現の間――行間紙背を、彷徨う。
更新履歴
4/30
サイト休止に伴い、TOP画像変更。
突然ですが、『たびこま堂Website』は今日をもって無期休止します。
理由は、大きくわけて二つありまして、
まず一つが、メインコンテンツのはずだった小説を、自分が全く書けなくなったことです。
このままズルズルと日記サイトとして在り続けるよりは、
一度距離をおき、自分を見つめなおしてみたいと思った次第です。
もう一つの理由は……新しく開設した日記メインのブログの方でそのうち書くかもしれません。
ブログへのリンクは上記ショートショート内にあります。
もしよければ、そちらの方にも足を運んでいただけると嬉しいです。
まことに勝手な理由で、長く足を運んでいただいた方々には申し訳ありません。
スタートだけでゴールさせていない話もあるので、自分のためにももう一度、とは思っていますが……
正直、いつになるかわかりません。
約三年、ダメダメ管理人のHPに足を運んでいただき、本当にありがとうございました。
管理人 旅野こま
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